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今月のトピックス

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高齢化社会で増加する心不全 ~心臓弁膜症が原因の心不全は治すことが可能~

高齢化社会で増加する心不全
~心臓弁膜症が原因の心不全は治すことが可能~

渡辺 弘之(東京ベイ・浦安市川医療センター ハートセンター長)

高齢化社会の中で、心不全が増加しています。日本心臓財団では、その心不全の一因となる心臓弁膜症について、2016年11月にプレスセミナーで取りあげました。
心不全は心臓の機能が著しく低下した状態のことですが、高齢化が進む中、加齢による心臓の弁の異常で心不全になる人が増えており、大きな問題となってきています。心不全は多くの人の死亡原因になっているだけでなく、重症の場合はガンよりも生命予後が良くありません。しかし、医学の進歩によって、弁の障害も医療によって治すことが可能になりました。つまり、生命予後の悪い心不全を治すことができる時代になったのです。
心臓弁膜症の推計患者数は現在200~300 万人といわれており、年々増加しています。その弁膜症の中でも代表的なものが大動脈弁狭窄症です。65 歳以上の2~4%が罹患しており、日本国内の潜在患者数は100 万人に達すると推定されています。
今回は、そのプレスセミナーでご講演いただいた東京ベイ・浦安市川医療センター ハートセンター長の渡辺弘之先生の講演内容をご紹介します。

高齢化で患者は増える一方で、治療を受ける患者は少ない現実

欧米のデータによると、高齢化は弁膜症を増やすことがわかっています。かつては、リウマチ熱などの感染症が弁膜症の原因で、日本でも同様でした。しかし、リウマチ熱の治療が進んでいる現在の日本では、高齢化による弁膜症が増えているのです。75 歳以上で、弁膜症の患者が増えていますし、その一つである大動脈弁の弁膜症も増えています。そのような中、最も問題なのは、治療を受けている患者が少ないという現実です。例えば大動脈弁狭窄症は、いったんひどくなった弁は元に戻らないため、重症になると機械弁、生体弁での弁置換術が必要になります。ところが、弁置換術を受けた年間の患者数は、潜在患者数の約1%にすぎません。推定患者数が約100 万人いてその1%が手術を受けているだけなのです。

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大動脈弁狭窄症とは何か

心臓は、拡張と収縮を繰り返すことで、ポンプのように身体中に血液を循環させています。その際、血液の逆流を防止しているのが心臓の中にある4 つの弁です。大動脈弁もその一つで、左心室の出口にあって、大動脈に送り出された血液が左心室に戻らないように防止しています。そのために心臓の動きと共調し、心臓が縮むときに開いて、拡張するときには閉じているのが普通です。しかし、これがうまく開かなくなったり、逆に閉じなくなったりすることがあります。これが弁膜症で、前者は狭窄症、後者は逆流症です。大動脈弁狭窄症は前者で、正常に開くときには出口が3 ~ 4 ㎠の大きさになりますが、大動脈弁が硬く開きにくくなって、どんどん小さくなります。そして、開いた時でも1 ㎠を切ってくるようになると、重症の大動脈弁狭窄症です。高齢化による動脈硬化が原因の一つと言われています。
正常の人と大動脈弁狭窄症の患者さんで、心臓と弁の動きを比べてみましょう。下の動画は超音波を使った心エコー図です。弁膜症を診断するのに一番有用な検査です。左が正常で、右が大動脈弁狭窄症です。右のほうは出口(弁)がほとんど開かず、心臓の壁が厚くなって(肥大)、変形しているのがわかります。

弁膜症

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動画

正常
動画

大動脈弁狭窄

(提供:東京ベイ・浦安市川医療センター)

次の動画はアニメーションです。左が正常、右が大動脈弁狭窄症です。右のほうは出口(弁)が非常に狭くなって、これが心臓に負担をかけてくるのです。

大動脈弁狭窄は進行性の病気


正常

大動脈弁狭窄

(提供:エドワーズライフサイエンス)

症状からは、気づきにくい大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症は、進行していくと胸痛、息切れ、失神が起こるのが典型的な例ですが、症状がほとんどない、あるいは気づかずにいきなり心不全になる例が最近増えています。症状がゆっくり進んでいくためで、これがこの病気の恐ろしいところです。例えば、診断のための世界標準の物差しとして、NYHA分類があります。動いたときに起こる身体の症状で心不全の状況をⅠ~Ⅳの4 つのレベルに分類するものです。一番軽いNYHA Ⅰでは、平地を全速力で走った時に症状が出る人と定義されます。しかし、85 歳の人が全速力で平地を走ることはまずありませんから、わかりにくいのです。しかも高齢になって急激に体力が低下していくと、身体の異常が加齢のせいなのか病気なのか見極めることが簡単でありません。したがって、適切な検査と、適切な問診、診察、診療が必要になってきます。
そのためには、一般の人に病気を知ってもらい、症状がなくても検査して治療することの重要性を知ってもらうことが大切です。

NYHA Ⅰ NYHA Ⅱ
活動制限なし
長い坂道を上がると
平地を全速力で走ると
201701_image004_1.jpg わずかな活動制限
日常労作で症候性
平地をウォーキングすると
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NYHA Ⅲ NYHA Ⅳ
強い活動制限
自宅内での活動
トイレまで歩くと
201701_image004_3.jpg 安静時にも症候性 201701_image004_4.jpg

治療法も確立。大切なのは早期発見

重症の大動脈弁狭窄症になると、治すためには、弁置換術が必要です。通常、若い人の場合は機械弁を使用し、65 歳を超える高齢者の場合は生体弁を入れます。ただし、手術を決める際には、心機能や体力、不整脈など全てを総合的に診断することが極めて重要です。そのため医療現場では、チーム医療が常識になっています。診断の結果、標準的な外科治療が可能な場合には弁置換術になりますが、手術が困難な患者の場合にはカテーテルで大動脈の弁を置換するTAVIという新しい治療法が始まっています。
いずれにしてもいち早く見つけることが大切です。心臓弁膜症は症状だけではわかりませんから、患者さんはちゃんと診察を受け、医師は確実に見つける、そんなやり取りの中でしか早期の発見はできません。これは心不全の予防のためにとても重要なことです。早めにわかれば弁膜症という病気は怖いものではありません。

(2016年11月7日、日本心臓財団プレスセミナーより)

*本プレスセミナーは、エドワーズライフサイエンス(株)、シーメンスヘルスケア(株)、第一三共(株)、フィリップスエレクトロニクスジャパン(株)の協賛で行われました。

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