疾患別解説

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大動脈弁狭窄症の治療選択(外科治療、MICS、TAVI)

76歳 男性
2017年7月24日
父が3年前に大動脈弁狭窄症の診断を受け、定期的に受診していましたが、3ヵ月前に状態が悪くなっているとのことでカテーテル検査を実施し、冠動脈は多少狭くなっているものの手術は不要でしたが、弁のほうはかなり硬くなっているので手術をしたほうがよいと言われました。
自覚症状は、動いた後にたまに胸がぎゅう、と締め付けられるような感じがすることがあるが、安静にしていると数分で収まると言っています。
インターネットで調べたところ、TAVIというカテーテル治療があるとのことですが、通常の手術では負担のある人に対して行われる方法、と受け取れたのですが、対象になるのでしょうか。
開胸手術と比べてリスクが低く効果的なのでしょうか。
また、MICSという手術方式も目にしたのですが、この方法でもリスクは変わるのでしょうか。
いつ、どのような手術方法が最適なのでしょうか?
また、手術時の死亡率は3%という情報も見たのですが、これは一般的に合併症がある場合も含めての数値なのでしょうか。

回答

お父様は症状がある高度大動脈弁狭窄症で外科的治療適応の可能性が高いと存じます。この状態の患者さんでは心不全や突然死のリスクがあるため、年単位で手術を待つメリットは低いと考えられます。
 
1)通常の開胸術は、胸の中心にある『胸骨』を縦に切開し、痛んだ大動脈弁を摘出し、人工の大動脈弁を挿入する方法です。この治療方法は最も歴史が長く、お父様の年齢では『生体弁』が用いられることが多いと考えられます。通常の開胸術には一定の侵襲度がありますが、人工弁周囲からの逆流が起こる可能性が低く、ペースメーカが必要になるような新たな合併症のリスクも高くありません。手術リスクは術前の状態に左右され、合併症などを総合的に考慮したリスクは2~3%と報告されています。
 
2)MICS(Minimal Invasive Cardiac Surgery,ミックス)は低侵襲の弁置換術です。通常の開胸術と異なり、『胸骨切開』を短くするか、右側の肋骨の間から心臓に到達します。比較的小さな傷で手術ができるので、術後入院期間が短くてすむことが最大のメリットです。ただし、全ての患者さんに用いることはできません。この方法に適した胸の形態か、大動脈の形態にリスクがないかどうかなどを十分に調べる必要があります。
 
3)TAVI(タビ)は、カテーテルで行う最も新しい、最も低侵襲の治療です。この方法は自己弁を摘出せず、その場で押し広げ、そこにカテーテルを用いて新たな生体弁を挿入します。弱点は、挿入した人工弁の周りから逆流が残ったり、ペースメーカが必要になる可能性があることです。
症状がある高度大動脈弁狭窄が適応になりますが、体力低下が著しい場合など、主として開胸術のリスクが高い患者さんのために用いられます。注意しなければならないのは、この治療も誰にでも適用できる治療ではないことです。
お父様の場合には、症状がある高度大動脈弁狭窄なのでタビ治療の適応の可能性はありますが、通常の開胸術リスクがどの程度か、大動脈弁の形態がタビ用の弁(タビ弁)に適しているか、タビ弁を運ぶためのカテーテルの通り道が細すぎないかなど、タビ固有の課題を検討する必要があります。
 
ご相談の三つの治療は、現在日本で選択できる代表的な外科的治療です。ミックスやタビは新しい治療でそれぞれ治療に伴う侵襲度をさげることができますが、それぞれの方法に固有の解剖学的課題について検討が必要です。放置しても内科的治療で狭窄した弁を開くことはできないため、今が外科的治療を考慮するタイミングと思います。是非主治医の先生と一緒に、それぞれの治療のメリットとデメリットをお考えになって決められるといいと思います。

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