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小児の肺移植

6ヵ月 男性
2012年5月31日
小児の肺移植の現状について教えてください。

回答

肺移植は、世界的にも小児ではたとえ15歳以下でも、全体の6~7%以下の症例数であり、きわめて稀です。人口が日本の約2.8倍の米国でも数は少なく、また健康で、小さな、そしてきれいな、傷のない、肺炎のない、先天奇形のない、完全に近い肺の提供にはなかなか巡り合えないのが現状です。
 移植開始から30年近く経った米国UNOSの年間移植対象者数、移植症例数の統計をネットで見て頂ければ理解していただけると思います。わが国での最小の肺移植は4歳の生体片肺移植です。つまり近親者からの提供ということです。小児の場合、やはり肺のサイズが問題になりますので、あまり大きすぎても子どもの胸に入らないことがあります。最終的には、移植前には提供者の体格と、非移植者〔患者〕の体格から肺の大きさを計算して、生体移植が可能かどうかのサイズをチェックします。もちろん肺全体のサイズだけではなく、吻合する気管支・気管や肺動脈・肺静脈のサイズ(径)が、あまりも違いすぎると技術的にも困難です。肺移植は他の臓器移植に比べ予後は悪く、やはり気管を介して感染経路があること、提供される時点での肺の状況が悪い事、例えば救急蘇生して胸をマッサージで圧迫したり、口から誤嚥して食物を飲み込んで(誤嚥)いたり、など他の疾患と違う問題点が多々あります。
一般には、移植後1ヶ月で生存率90%、1年で75%、5年で55%の生存が平均的な予後とされています。手術を乗り越えられないことも10%近くあるということです。
 体重が5kg以下の小さなお子さんの場合、肺のサイズは成人からの生体肺移植では、肺が大きすぎるため、移植できません。
 また、生体肺移植では、血液型が適応している間柄でないと、輸血と同じ理屈ですが、不可能です。 
 この他、提供者の体格によって、大体の可能性は判断できますが、世界でも3~6カ月前の小さな症例では、危険も高くなります。一生、免疫抑制剤を投与し、そのための副作用、腎障害、冠動脈障害、糖尿病をはじめとした薬剤による副作用、すっと付き合う慢性拒絶反応、とくに肺は、閉塞性細気管支炎という呼吸が苦しくなる長期の合併症が、移植10年後の異常の35~50%にみられ、その根本的な治療は、再肺移植しかないとされています。
 もちろん、ステロイド剤による身長の伸びの低下、感染症にかかりやすいこと、社会活動での制限もあることから、苦難の道が続くことになります。
 肺だけではなく、外からではわからない肺の中の血管や気管支にも問題がある場合は、心・肺同時移植も考えないといけません。この場合、さらに提供数や移植の頻度が少なくなります。

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