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心腎関連 Question 3

心不全に合併する貧血は治療すべきか

貧血はおおよそ1/3から1/2の心不全患者に認められます(JCARE-CARDからの報告では57%;Circ J 2009;73:1901-1908)。さらに、貧血を合併すると心不全患者の予後は悪いことが分かっています。

では、この貧血は治療の対象となるのでしょうか?

 できることはすべてやったほうがよい

という(やや前近代的かつ資本主義的な)単純原則に従うとするならば、貧血をすべて治療するという考え方も「アリ」なのですが、実はきちんと貧血の背景を考えなくては適切な手を打つことはできません。

まず、病態生理から考えていきましょう。心不全患者での貧血には二つの機序が考えられます。

 ・うっ血による希釈:体液過剰に伴い血液の希釈が起こり、見かけ上貧血を呈する。
 ・赤血球の絶対数低下:主な原因は鉄欠乏性貧血であり、心不全による低栄養状態や
  消化管での鉄吸収障害、抗血小板剤による消化管出血が関与しているといわれています。

ここにさらに、心不全による慢性的な炎症(サイトカイン関与)、合併する腎機能障害とエリスロポエチン(EPO)産生能および感受性の低下、さらにACE阻害剤やアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)による造血幹細胞の機能抑制などが寄与してくると考えられています。また、重症心不全(Stage IV等)の貧血の原因として「Cardiac Cachexia(心臓悪液質)」も重要です。その定義は、12ヶ月で5%以上の体重減少とされており、さながら末期癌のような全身状態の悪化を指します。心不全患者の10〜15%(特に収縮不全のある患者)に認められ、強い予後規定因子です。

ではここで,改めて考えてみましょう。すべての貧血は治療すべきなのでしょうか?
「うっ血による希釈」であれば、無論Noです。こうしたケースでは、体液のコントロールが主なターゲットになります。
「赤血球の絶対的な低下」についてはどうでしょうか?
メカニズムを鑑みると、赤血球の低下はむしろ心不全による全身状態の悪化や治療薬による付随作用の帰結と考えられるケースが多いことに気付かされます。事実、これまで数多くの臨床試験で、輸血、鉄剤、EPO製剤といった貧血の対症療法がテストされてきましたが、現状ではこれらの手段が生命予後を改善するという認識には至っていません。その詳細は以下のとおりです。

 1. 輸血:貧血の程度が重篤で、早期に補正が必要な場合に限って輸血は妥当な治療法です。しかしながら、予後に与える影響に関しては異論あるところで、心不全患者への明確な輸血基準はない、というのが現実です。循環器患者でよく用いられるメルクマールはHb 10g/dLですが、これは虚血性心疾患のデータを元にしたものです。参考までに、この虚血の領域でも、ACP (American College of Physicians; 米国内科学会) は、Hb 7~8 g/dL以上の患者への輸血は推奨しないという提言を出しており、決まったコンセンサスはありません。

 2. 鉄剤:鉄欠乏が存在する心不全患者への鉄剤静注は、短期的な運動耐容能とQOLを改善する可能性がありますが、長期予後に関しては関連がありませんでした。(N Engl J Med 2009;361(25):2436-2448)

 3. 赤血球生成刺激剤(ESA):これまでに腎性貧血に対するESAの有効性を検討したCREATE、CHOIR、TREAT試験では、いずれも予後は改善させず、差がないか、あるいは 逆に心血管イベントを増加する というものでした。(N Engl J Med 2006;355:2071-2084,N Engl J Med 2006;355:2085-98,N Engl J Med 2009;361:2019-32)。最近発表された、軽度〜中等度の貧血を合併した収縮不全患者を対象にした RED-HF試験でも(N Engl J Med 2013;368(13):1210-1219),ESAは死亡率や心不全再入院といった主要アウトカムを改善させず,逆に血栓塞栓性イベントを増加させました(13.5% vs. 10.0%,P=0.009)。これには、ESAによる血圧上昇作用や血液粘稠度上昇作用の関与が疑われています。

* 日本のCKD診療ガイドライン2013年では、腎性貧血へのEPO製剤投与に際してのヘモグロビン(Hb)値の管理目標値に関して、現時点では血中Hb濃度は9〜11.5g/dlでの管理が一応妥当という見解を示しています。

Cardio-Renal-Anemia Syndrome (CRAS)という概念があります。これは心不全、腎不全、貧血が相互に影響し、各々が原因かつ結果であり、この一連の悪循環を断つことの重要性を説いたものです。これらの三つの要素は統合的に管理される必要があり、個々への限定的な介入の効果は極めて限定的です。特に貧血に関しては、これまでみてきたようにガイドラインにも明確な記載はありません。

基本的なことですが、心不全患者の貧血は体液量が適正な状態で論じる必要があります。その上で,現状の治療戦略のラインナップとしては、

 ① 血行動態が破綻しているなどの状況で、輸血以外に手がないなら輸血
 ② 血行動態が安定していれば、鉄欠乏性貧血があれば鉄剤投与
 ③ 体液量を適正にしてもHb <9g/dlで心不全コントロールが難しい時にEPO製剤
  (を考えてもよい)

といったところになるかと思われます。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

心不全の貧血治療は、Cardio-Renal-Anemiaという「森」で考え、原則各個撃破はしない。

回答:白石 泰之、香坂 俊

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