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心筋炎・心筋症 Question 1

心電図で左室肥大と診断され、心エコーを行ったところ、肥大型心筋症と診断された患者さんがいます。肥大型心筋症は予後不良ですか

1982年(昭和57年)の特発性心筋症調査研究班の報告では、肥大型心筋症(Hypertrophic cardiomyopathy; HCM)の5年生存率および10年生存率は、それぞれ91.5%と81.8%で約20%の患者さんが診断後10年以内に死亡することになります(河合忠一,他. 特発性心筋症の予後調査. 厚生省特定疾患心筋症調査研究班 昭和57年度研究報告集. 1983: 63)。しかし、わが国に多い心尖部HCMは、時に長い経過で左室収縮能障害を来たし心不全に陥る症例もみられますが、概ね予後良好です(Eriksson MJ, et al. J Am Coll Cardiol 2002;39: 638)。このため、HCMは予後不良と一概には言えません。

HCMにおける疾患関連死の原因としては突然死、心不全死、脳卒中(主に心房細動の塞栓症)が主なものです。2002年にわが国で行われた大規模な疫学調査ではHCMの年間死亡率は2.8%であり、死因としては不整脈が31.9%、心不全が21.3%でした(Matsumori A, et al. Circ J 2002; 66: 323)。欧米のHCMにおける疾患関連死亡86例の解析では、突然死が44例(51%)、心不全死が31例(36%)、脳卒中死が11例(13%)と報告されています。突然死は若年者を中心にみられその平均年齢は45歳であり、心不全死は中年以降に多く平均56歳、脳卒中死は平均76歳と高齢者に多くみられています(Maron BJ, et al. Circulation 2000; 102: 858)。

HCMと診断された患者さんの予後を推定するうえで、突然死の危険因子があるかを評価することが重要です()。心室性不整脈、失神、突然死の家族歴、著しい左室肥大などが主要な危険因子であり、拡張相肥大型心筋症、左室流出路狭窄、広範な線維化なども関与します。修飾可能な因子として激しい運動や冠動脈疾患があげられ、これらの危険因子の数と突然死のリスクは比例すると報告されています(Elliot PM, et al. Lancet 2001;357: 420)。逆に,これらの危険因子のいずれをも有しない症例では突然死にいたる危険はほとんどないと報告されています(Elliot PM, et al. J Am Coll Cardiol 2000; 36: 2212)。心不全や脳卒中の発症には、拡張相肥大型心筋症への移行や心房細動の合併が深く関与していると言われています(Kubo T, et al. Geriatr Gerontol Int 2010; 10: 9)。

表 突然死に関する危険因子
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循環器病の診断と治療に関するガイドライン. 肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2012年改訂版) http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_doi_h.pdf(2014年10月閲覧)

HCMに家族性があることは古くから知られており、近年は多数の遺伝子変異が報告されています。HCMにおいては同一の変異を有する家系内や、同一の変異を有する異なる家系ごとに、変異の浸透率、発症年齢、重症度などの臨床型は多様です。さらに環境因子、性別、遺伝的修飾因子などが、臨床型の多様性に関与しています。このため予後良好とされた変異が病因の家系において突然死が多くみられることや、予後不良とされた変異を病因とする家系において疾患関連死が少ないことがあることなどの報告もあり、遺伝子変異から生命予後を推測することには現在のところ限界があると思われます(Landstrom AP, et al. Circulation 2010; 122: 2441)。
 

(2014年10月公開)

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肥大型心筋症は肥大様式と危険因子を評価することが重要。

回答:鈴木 健吾

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