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弁膜症 Question 3

僧帽弁狭窄症の患者さんが少なくなったようですが・・・

僧帽弁狭窄症(mitral stenosis, MS)の圧倒的多数がリウマチ熱に起因します。ほかに感染性心内膜炎と僧帽弁輪石灰化が約3%占め、残り1%弱は先天性や膠原病が原因とされています。

リウマチ熱は子供の時にA群溶連菌の咽頭感染が原因とされています。偶然遺伝的に心臓弁膜の表面組織と溶連菌細胞の抗原に一部類似性があると、溶連菌に対して作られる抗体が弁膜組織に対しても交差反応を示し、無菌性心内膜炎を引き起こします。これがMSの始まりと考えられています。

特にリウマチ熱の再発は心内膜炎と関連が強いと報告されています。初期のリウマチ性心内膜炎は僧帽弁閉鎖不全症を起こします。その後長い年月を経て、慢性炎症による弁交連の癒着と弁尖の石灰化が進み、MSに至ります。先進国では、リウマチ熱自体が稀な疾患になったため、MSの新規発生も自然に減少しました。

現在日本の外来診療で遭遇するMSは主に5種類あります:
1)軽症か、中等症で経過してきた未手術の患者(大体50代以降、心房細動の合併が多い)
2)一度や二度交連切開術(開心術か、井上バルーンによる経皮経カテーテル弁交連切開術=PTMC)を受けた患者(ほぼ全例心房細動)
3)僧帽弁置換術後で、人工弁(生体弁も含めて)機能不全によるMS(弁座にパンヌス形成→有効弁口縮小。ほぼ全例心房細動)
4)高齢者や透析患者の高度弁輪石灰化による軽度のMSと僧帽弁形成術で弁輪を締め過ぎたMS(これらも重症が少なく、同時MAZE手術施行により洞調律も稀ではない)
5)発展途上国から来日した若年者のMS。

特殊例として、左房の粘液腫や血栓による弁口通過障害や、心臓外腫瘍の圧迫による左室流入障害(いずれも血行動態的なMSであり、真の“弁狭窄”のMSではない)、パラシュート僧帽弁(先天性一尖弁)が稀にみられます。

MSになると、左房から左室への血液流入が障害され、ドミノ倒しのように左房圧上昇→肺静脈圧上昇→肺毛細血管圧上昇となり、労作時息切れが出現します。さらに二次性肺高血圧になりますと、右室と右房が拡大します。最後に右房圧が上昇すると、体うっ血(下腿や顔面浮腫、胸水貯留など)が出現します。二次性肺高血圧の発生機序にまだ定説はないですが、肺毛細血管圧上昇を防ぐために肺動脈が収縮して、肺へ流れる血液を減らす“生体防御反応”説がわかりやすいです。

MSの診断は聴診に始まります。聴診器のベル側を心尖部に軽く当て、低音の拡張期ランブル音が特徴です(心尖部が最強点)。胸部X線写真で心陰影拡大、聴診で心雑音聴取、或は心電図で心房細動をみたら、必ず一度は心エコーをとるようにすれば、MSを見逃す可能性は低くなります。MSでは左房内血流停滞によって左心耳や左房に血栓が形成しやすいので、早期診断が血栓塞栓症の予防に重要な意味を持ちます。たとえ洞調律であってもMSは見つかり次第抗凝固療法を開始すべきです。

心エコーでみるMSの特徴的な所見は弁交連癒着と前尖のドーミング形成、弁尖と腱索、乳頭筋の短縮と肥厚、大きな左房に小さな左室です。僧帽弁閉鎖不全症、大動脈弁狭窄症や閉鎖不全症、二次性三尖弁閉鎖不全症(右房と右室は大きい)の合併が多いです。

正常の僧帽弁口面積は約4cm2ですが、2cm2まではあまり日常生活で困りません。大体1.5cm2位になると、労作時息切れが出現し、1cm2以下は重症です。MSは手術の時期を決める必要があるので、診断がついたら専門医に紹介するのが無難です。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

MSは問診(症状と治療歴)と聴診(心尖部拡張期ランブル音)で疑い、心エコーで診断し、確定したら即時抗凝固療法を開始しましょう。

回答:宇野 漢成

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