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高血圧 Question 4

高血圧の治療で「下げすぎるとよくない」ということを聞いたことがありますが、正しいですか

高血圧は将来の心血管疾患発症のリスクとなります。血圧が、至適血圧(収縮期血圧120mmHg未満かつ拡張期血圧80mmHg未満)を超えて高くなればなるほど疾患発症も死亡も多くなります。

これに対して、収縮期血圧を10mmHgまたは拡張期血圧5mmHgを低下させると心血管疾患リスクは脳卒中で約40%、冠動脈疾患で約20%減少することが過去の臨床試験のメタ解析により示されました。BPLTTC (Blood Pressure Lowering Treatment Trialists’ Collaboration) という非序に信頼性の高いメタ解析も同様の結果を確認しています。

さらに、血圧が高いほど、高齢であるほど、血圧以外の因子の合併により心血管疾患発症リスクが高いほど、降圧薬治療によりリスクが低下します。
 これらの結果から、血圧に関しては“the lower、 the better”という考えが信じられてきました。

しかし、高リスクの2型糖尿病患者における大血管障害の発症リスクの抑制を調べたACCORD BP試験によると、厳格な降圧(119mmHg対134mmHg)は心血管イベントを減少しませんでした。
 2型糖尿病の降圧程度と心血管死との関係を調べたメタ解析でも、135mmHg未満の降圧は心血管死を減少する傾向を示しましたが、130mmHg未満の降圧は有意ではないものの心血管死を増加する傾向にありました。

これらの結果から、各国の高血圧治療ガイドラインは糖尿病の降圧目標としてこれまでの130/80mmHgではなく、最近では140/90mmHgを採用しました。
 “130/80mmHg未満まで下げた方が良いというエビデンスがない”という意味です。

しかし、脳卒中においては明らかに130mmHg未満の降圧が脳卒中を減少させました(Bangalore S et al. Circulation 2011; 123: 2799)。日本人では脳血管疾患が相対的に重要であることから、JSH2014では日本人の糖尿病合併高血圧の降圧目標値を130/80mmHg未満に据え置きました。

他方、主として冠動脈疾患患者を対象にしたINVEST試験の後付け解析をもとに、冠動脈疾患を有する高血圧患者においてあるレベル以下への降圧、とりわけ拡張期圧の低下により予後が悪化する可能性(J型現象)が示唆されました。

具体的には、拡張期圧70mmHg未満で心血管死亡率が増加することが示されています。さらに、冠血行再建術は低拡張期圧による心イベント発症を低下することが報告されました。
 メカニズムから推定される、“過降圧が有害であるという懸念”です。

しかし、冠動脈疾患患者を対象にした多くのプラセボ対象比較試験では、収縮期血圧が140mmHg台より130mmHg台、130mmHg台より120mmHg台へ降圧すると冠動脈疾患発症リスクが低下することが示されています。

現在のところ、過降圧によるリスク上昇にははっきりしたエビデンスはありません。そこで、JSH2014では動脈硬化性冠動脈疾患、末梢動脈閉塞疾患、頸動脈狭窄がある患者においては、降圧に伴う臓器灌流圧低下に対する十分な配慮が必要であると注意を喚起しました。
 
“血圧の下げすぎに注意し降圧目標を高めに設定する”という考えは正しくありません。最低でもガイドラインの降圧目標まで血圧を下げると有益であるというエビデンスはありますので、個々の患者のリスクベネフィットを考えてしっかりとした降圧治療を行うべきです。
 

(2014年10月公開)

Only One Message

下げすぎに注意は必要だが、降圧目標のエビデンスがないのと過降圧が有害であるのとは異なる。

回答:原田 和昌

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