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診療のヒント100 メッセージはひとつだけ

心不全 Question 10

息切れがする患者さんで、呼吸器が原因か心臓に問題があるかを簡単に見極められる方法はありますか

息切れの原因が肺なのか心臓なのか、簡単に見極める方法というのはありません。肺と心臓は連続した臓器であり、一方が異常をきたすと他方にも大きく影響を及ぼすため身体所見も似通ったものになります。

たとえば慢性の呼吸器疾患が長期間続くと肺性心となります。肺性心は右心不全の病態を呈するため心不全と同様の身体所見となります。また心不全による呼吸困難を心臓喘息とよぶことがあり、喘鳴等の症状は気管支喘息によく似ています。このように両者を簡単にしかも確実に判別するのはかなり難しいことです。

しかし以下の4つのポイントから原因を推察することはできます。

まず一つ目は自覚症状です。心不全による呼吸困難の特徴の1つに起坐呼吸があります。坐位になると静脈還流量が減少し前負荷が軽減することにより呼吸が楽になるため心不全の患者が経験的にとる体勢です。しかし起坐呼吸は気管支喘息の発作時にもよくみられます。そこで「臥位になると呼吸が苦しくなる」や「夜息苦しくて眠れない」、「就寝後2~4時間ほどで呼吸困難で目が覚める」などの訴えは心不全を示唆する症状であり注意して問診します。

二つ目に聴診所見です。心不全のすべてではありませんがⅢ音やⅣ音が聴かれることがあります。左側臥位でベル型を用いて聴診すると低調な音として聴かれます。また肺野において「プツプツ」という水泡音(湿性ラ音)が聴かれればこれも心不全を示唆する所見です。

三つ目に頸静脈怒張と浮腫です。頸静脈の観察により中心静脈圧(CVP)の推定を行うこともできます。45度の半坐位で頸静脈怒張が観察されればCVPは10~12cmH2O、坐位で観察されれば13~15 cmH2O と推定されます。半坐位よりも高い姿勢で頸静脈怒張がみられれば心不全が疑われます。浮腫は下腿に出現しやすく、圧痕が残るpitting edemaが特徴です。

四つ目に脈拍数と呼吸数です。安静時の脈拍数100回/分以上は心不全の可能性を示唆し、呼吸数28回/分以上は呼吸器疾患の可能性を示唆します。

以上の四項目の所見より心不全か呼吸器疾患か大体の推測はできますが、いずれにおいても例外があります。

そこで身体所見を補うため検査を行います。最も鑑別に有用で簡便な検査は胸部レントゲン写真です。心拡大や肺うっ血があれば心不全の可能性が高くなります。肺野の拡大や透過性亢進があればCOPDを考えます。

また血中BNP値は肺疾患ではあまり上昇しないためBNP高値は心不全を示唆する所見となります。さらに可能であれば心エコー検査まで行なうとより確実な鑑別ができます。左室壁運動異常や心房・心室の拡大、弁膜症の有無などは心不全の有無を判断する決定的な要素となります。また下大静脈の拡大と呼吸性変動の有無をチェックすることにより容量過負荷の状態か判断できます。

Only One Message

呼吸困難は、聞いて(問診)、聴いて(聴診)、視て(頸静脈、呼吸数)、触って(浮腫、脈拍数)判断する。

回答:手嶋 泰之

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