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不整脈 Question 6

発作性心房細動も慢性心房細動と同じくらい脳梗塞のリスクがあると聞きましたが、本当ですか

心房細動は10年や20年といった長い期間でみると、最初は発作性に出現し、徐々に発作頻度が増え、持続時間が長くなり、やがて慢性心房細動になっていきます。

発作性心房細動は時にしか心房細動となっていませんので、常に心房細動である慢性心房細動の方が脳梗塞を発症しやすいように思えます。しかし、これまでの心房細動における脳梗塞発症の危険因子を検討した小規模の研究の多くは、発作性、慢性といった心房細動のタイプが独立した危険因子であることを示したものは多くはありませんでした。

非弁膜症性心房細動患者を対象にアスピリンとクロピドグレルの2剤の抗血小板療法の併用とワルファリンによる脳卒中予防効果を比較したACTIVE W試験は2剤の抗血小板療法に比してワルファリンの優位性を示しました。そのACTIVE Wにおいて「慢性心房細動患者に対する発作性心房細動患者の脳卒中リスク」と「発作性心房細動に対するワルファリンとアスピリン+クロピドグレルの有効性と安全性」がサブ解析にて検討されました。

エンドポイントは全脳卒中+非中枢神経系(CNS)全身塞栓症。心電図で心房細動と診断され、①75歳以上、②高血圧の治療中、③脳卒中/一過性脳虚血発作/非CNS全身性塞栓症の既往、④左心室機能障害(左室駆出率<45%)、⑤末梢動脈疾患、⑥55-74歳で①-⑤を有さない場合は薬物治療を要する糖尿病または冠動脈疾患の既往の1つ以上に該当する患者、つまりCHA2DS2-VAScスコア1点以上を有する群が対象とされています。

結果として発作性心房細動群は慢性心房細動群に比し、若く、心房細動歴が短く、高血圧が多く、弁膜症、心不全、糖尿病群が少なく、CHADS2スコアが低い傾向がありました。心房細動の自然歴を考えると発作性で高血圧が多いということ以外は当然の結果のように思えます。

エンドポイントは発作性心房細動群で1202例中29例(2.0/100例・年)、慢性心房細動群で5495例中155例(2.2/100例・年)に発生し、発作性心房細動と慢性心房細動とで差はみられませんでした(p=0.755)。(

図 心房細動タイプ別脳卒中または非CNS性全身性塞栓症の発生率 (文献1より)
吉賀図1.jpg

治療法別にみると慢性心房細動ではアスピリン+クロピドグレル投与者は経口抗凝固薬投与者に比しエンドポイントの発生が多く(3.0/100例・年 vs 1.5/100例・年)、発作性心房細動でも有意差はみられないものの同様の傾向が認められました(2.4/100例・年 vs 1.5/100例・年)。また全出血はアスピリン+クロピドグレル投与患者の方が経口抗凝固薬投与患者よりも発作性心房細動(15.3/100例・年 vs 12.0/100例・年)、慢性心房細動(15.0/100例・年 vs 12.9/100例・年)ともに多いことが分かりました。

エンドポイントからみると発作性心房細動と慢性心房細動が同じくらい脳梗塞のリスクがあるように思えます。しかし、発作性心房細動のCHADS2スコアが慢性心房細動に比し低い傾向にあるにも関わらず、脳梗塞リスクが同等というのは矛盾しているように感じます。

その理由としてACTIVE Wでは経口抗凝固療法が発作性心房細動では64.8%の患者さんに投与されていたのに対し、慢性心房細動では79.5%の患者さんに有意に多く投与されていました。そのため、発作性心房細動と慢性心房細動の脳梗塞発症率にCHADS2スコアの影響と抗凝固療法の予防効果が相殺され同等のリスクとなったのかもしれません。

ただし、発作性心房細動においても慢性心房細動と同様に脳梗塞予防および出血リスクの軽減のためには抗血小板剤よりも経口抗凝固薬が有用であるということは間違いないと思われます。


参考文献
1) Hohnloser SH, Paijitnev D, Pogue J, et al. Incidence of stroke in paroxysmal versus sustained atrial fibrillation in patients taking oral anticoagulation or combined antiplatelet therapy: an ACTIVE W Substudy. J Am Coll Cardiol. 2007; 50: 2156-61.

Only One Message

発作性心房細動は慢性心房細動と同様に抗凝固療法による脳梗塞予防が重要である。

回答:吉賀 康裕

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