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虚血性心疾患 Question 6

何にも症状や既往がないにもかかわらず、心電図で心筋梗塞の疑いという診断を目にします。症状がなくても心筋梗塞ということはあるのですか

いわゆる心筋梗塞とは、「心筋虚血に伴う心筋細胞の壊死」と定義されます。さまざまな手段でもって心筋細胞の壊死を推定するのが心筋梗塞の臨床診断。「症状がなくても心筋梗塞」の多くは心電図検査の偽陽性です。しかしながら、健康診断受診時にはまったく無症状の陳旧性心筋梗塞(OMI)は稀にみられます。無症状の急性心筋梗塞(AMI)も、極めて稀ながら遭遇することがあります。いかにして数多くの偽陽性と真陽性を見分けてゆくのか?

まずは、よくある偽陽性所見について説明します(を参照)。

表 心筋梗塞診断の偽陽性の例
樋口表2.jpg

・異常Q波:OMIの疑いと診断されます。異常Q波の定義は幅が0.04秒以上であるか電位がR波の25%以上であること。それ以下の「小さなq波」は正常範囲内であると考えてよい。3次元の電位ベクトルを2次元に写し取るのが心電図検査。よって心臓の胸郭内の位置(水平位、垂直位、回転)によっては狭い範囲の誘導でQ波がみられることがあります。

・ST上昇:AMIの疑いと診断されます。心筋細胞の早期再分極は胸部誘導でのST上昇としてとらえられて、AMIと心電図診断されることがあります。早期再分極心電図は、ブルガダ症候群との関連で注目されてきています。AMIを鑑別するときに心電図で着目するのは、対側誘導のST部分が低下(mirror imageとかreciprocal changeと言われる)していないかどうか。症状が無くても対側誘導でのST低下を認めるときはAMIの要注意症例です。

無症候の患者に対しての心電図検査とは、いわゆるスクリーニング検査です。診断に至るまでの窓口は、最初は広く浅く、だんだんと絞ってゆく方がよい。あらゆる検査には感度と特異度があります。心電図検査は最初の窓口です。ゆえに偽陽性は容認されるが、偽陰性は許されないのが心電図検査の宿命。

いずれにせよ、スクリーニングとして用いる心電図検査は陰性的中率に特化した検査と考えたほうがよいです。したがって偽陽性が多くなるのは致し方なし、そんなもんだと思って検査結果を受け止めるのがよいです。

高齢者や糖尿病の患者では、無症状あるいは非典型的な症状となるので注意が必要です。小さなq波や、ⅢのみあるいはaVLのみに見られる異常Q波は偽陽性と診断してもよいです。それら以外の陽性所見であるならば、心エコー検査を追加した方がよい。

先入観を持たずに、検査結果は虚心坦懐に解釈するべきです。健康診断で症状のない異常Q波を心エコー検査するとOMIが見つかることがあります。問診と聴診器と心電図のみで診断するのは、美談にはなってもリスクが大きい。医療資源に恵まれた環境では、複数の検査による分業体制が基本であると考えます。

Only One Message

「小さなq波」、ⅢのみあるいはaVLのみの異常Q波は偽陽性。それら以外は、心エコーを追加する。

回答:樋口 義治

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