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山科章氏

 動脈硬化性病変の評価において画像検査と血管機能検査は不可欠な手段であり、近年では検査技術の進歩に伴い、より精度の高い情報が得られるようになっている。画像検査には、超音波を用いたエコー検査やX線を用いたCT検査などがあり、血圧脈波検査としては、脈波伝播速度(PWV)検査などがある。本講演で山科章氏は、画像検査の有用性とともに、血管機能の評価法として急速に普及してきたPWV検査の有用性について概説した。

動脈硬化の2つの病変──形態的異常と機能的異常

 脳梗塞、冠動脈疾患、末梢動脈疾患を含む全身の心血管疾患は動脈硬化を基盤に発症する。ひとくちに動脈硬化といっても、形態的異常と機能的異常という2つの側面があることに注意したい。形態的異常とは動脈壁の肥厚や内腔の狭窄、脂質沈着を伴うプラーク(粥腫)やその破綻部位に形成される血栓などであり、エコー検査、CT検査などによって、いわば視覚的な診断が可能である。もう一方の機能的異常とは、動脈壁の硬さが増大するものであり、視覚的な診断は困難である。正常な動脈は適度な伸縮性(コンプライアンス)をもち、拍動して血流を全身に送る働きをしているが、動脈壁の硬さが増大すると、このコンプライアンスが低下する。動脈コンプライアンスを評価するには血管機能を測定する必要があるが、その有力な方法として最近普及してきたのがPWV検査である。

頸動脈エコー検査は全身の動脈硬化の進行度を示す

図1.頸動脈エコーによるIMTの計測
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図2.高脂血症治療による頸動脈IMT変化と冠動脈イベントとの関連 図2
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図3.頸動脈IMT値5分位(厚さ)別にみた予後
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 動脈硬化における形態的異常を最も簡便に検出できる検査として頸動脈エコー検査がある。頸動脈にプラークが存在すると、エコー検査で描出される動脈壁と内腔の境界部の異常な変化として検出することができる。また、動脈硬化の程度を定量的に評価するために、動脈壁の肥厚度の計測が行われる。動脈は外側から外膜、中膜、内膜の3層で形成されており、この3層のうち内膜と中膜を合わせた厚さを内膜・中膜複合体壁厚(IMT)という(図1)。動脈硬化の進行は全身的に進むと考えられるため、頸動脈IMTは全身の動脈硬化の程度を推定する指標ともなる。一般に、動脈硬化が進むと脳梗塞、冠動脈疾患、末梢動脈疾患などのリスクが高まることが知られており、頸動脈IMTが長期予後に関係することを示すデータも報告されている。冠動脈バイパス術の既往歴をもち、2年間高脂血症治療を受けた男性患者を約9年間追跡した結果から、治療中の頸動脈IMTの上昇度が大きいほどその後の冠動脈イベントのリスクも上昇することが示された(図2)。また、多数の成人の頸動脈IMTを測定し、その値の5分位数により被験者を5群に分けて生存率の推移を7年間追跡した結果からは、その値が高いほど生存率が低下することが明らかになった(図3)

冠動脈疾患の診断を可能にしたマルチスライスCT検査(MDCT検査)

図4.胸痛を訴え受診した46歳男性の緊急冠動脈CT
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図5.不安定プラークの検出 図5
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 冠動脈疾患は、これまで主に血管造影検査によって診断されていたが、この検査はカテーテルを動脈に入れて目的とする部位に進めて造影剤を注入するものであり身体への負担(侵襲)が大きいことが難点であった。しかし、最近登場した高性能のCT検査法では、非侵襲的に冠動脈を撮影でき、診断能力は向上しつつある。CT検査はγ線を放出する大きな円筒状の装置(ガントリー)を高速回転させ、透過線量をコンピュータで計算して断面像を描出する技術である。心臓は呼吸に応じて動くため、検査時には被験者に一定時間呼吸を止めてもらう必要があるが、徐々にその時間も短縮されてきた。初期のCT検査が1回転で4列のスライスであったことに比べ、現在は1回転で64列のマルチスライスCT検査(MDCT検査)が可能となり、かつ回転も高速化したため、10秒以内で心臓全体をカバーできる。さらに、マルチスライスのデータに基づいて心臓の立体画像を再構成することや(VR像)、特定の血管の走行を2次元画面上に描き出すこと(CPR像)も可能である(図4)

 MDCT検査の登場により冠動脈の狭窄度、石灰化の程度、プラークの性状、冠動脈バイパス術やステント留置術施行後の経過などの評価が容易におこなえるようになった。実際、MDCT検査でプラークを検出した症例の画像を見ると、脂質含量が多く破綻しやすい不安定プラーク、すなわちソフトプラークが明瞭に描出されているのが分かる(図5)

“動脈の硬さ”を示す脈波伝播速度(PWV)

図6.収縮期血圧別にみた年齢とbaPWVの関係
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図7.収縮期血圧とbaPWVの関係――一般住民、糖尿病患者、高血圧患者の比較 図7
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 先に触れたように、エコー検査やCT検査を用いると動脈硬化性病変を形態的にとらえることができるが、動脈の硬さを評価するためには機能的な検査が必要となる。その方法として広く用いられているのがPWV検査である。PWVとは、心臓から動脈に駆出された血液による拍動が末梢に伝わる速度のことである。壁が硬くなると脈波はより速く伝達することから、PWVの上昇によって動脈コンプライアンスが低下していることを知ることができる。最近の上腕足首脈波速度(baPWV)では、心臓に近い上腕に先に到達した脈波と、少し遅れて足首に出現した脈波の時間差と、心臓からそれぞれの部位までの距離差を用いて算出される。ただし、PWVは血圧の影響を受け、血圧が上昇するとPWVも速くなることを考慮する必要がある。多数の健常者を対象にPWVを測定し、収縮期血圧、年齢との関係を調べた結果、PWVは血圧が高いほど上昇することと、どの血圧レベルでも加齢に伴って上昇することを確認している(図6)

 動脈硬化性疾患の危険因子とされる糖尿病、メタボリックシンドローム、炎症(CRP)、睡眠時無呼吸症候群などもPWVの上昇を促進することが知られている。たとえば、糖尿病患者、高血圧患者のPWVを一般住民と比較した成績が報告されているが、同じ血圧レベルでも、PWVは一般住民より高血圧患者の方が高く、糖尿病患者ではさらに高くなる(図7)。また、血圧が正常でもPWVが高いと高血圧を発症するリスクが増大することも明らかになっている。

 山科氏は動脈硬化性病変の評価について以上のように述べ、「これらがもたらす有益な情報を動脈硬化性疾患の治療だけでなく予防のためにも活用することが望ましい」としめくくった。

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